「あの……お姉さん、こっち! こっちに来て!」


 するとその時、年の頃十歳ぐらいの女の子が、ラルカに向かって必死に手招きをしてきた。


「どうしたの、お嬢ちゃん?」

「あのね、あっちであたしの友達の具合が悪くなっちゃったの」

「まぁ、それは大変だわ!」


 ラルカはその場に居た同僚にブースを離れることを伝えると、急いで女の子の後ろについていく。


「こっち。今は外に出てるの」


 ぐいぐいと手を引かれながら走り続け、やがて会場の外へと連れ出された。
 救護班に声を掛けようにも、ここから応援を呼ぶのは難しい。ひとまず場所と状況を確認すべきだと判断し、ラルカは女の子に付いていった。


「こっち、こっちよ」


 女の子がそう言って、建物と建物の間、路地裏へと入り込む。ラルカはそこで、暗がりにうずくまった子供の姿を見つけた。


「大丈夫? 気分が悪くなったのね?」


 イベントの人混みに酔ったのだろうか?
 ラルカはしゃがみ込み、子供の額に手を当てる。

 触ってみた感じ、熱は無いようだ。汗も殆ど掻いていないようだが――――

 と、そのとき、ヒヤリとした感触が首筋に押し当てられ、ラルカは小さく息を呑んだ。


「騒ぐな。声を上げたら刺す」


 背後からはどこか幼さの残るテノールボイス。
 目の前には、ラルカを連れてきた女の子と、先程までうずくまっていた子供が、ラルカのことをじっと見つめている。


(こ、れは……)


 背中を冷や汗が伝う。心臓がバクバクと嫌な音を立てて鳴り響いた。