「ラルカ!」


 背後から勢いよく抱きつかれ、ラルカは小さく息を呑む。
 甘ったるい香水、どぎつい化粧の香り。
 それが誰かなんて、振り返らずともすぐに分かった。


「姉さま」


 ラルカは冷静な声でそう呟く。
 
 メイシュが来るであろうことは、最初から予想していた。
 領地から大量のドレスを取り寄せたし、侍女たちまで借り上げたのだ。派手好きなメイシュが飛びつかないわけがない。
 どれだけブラントが心を砕き、メイシュとの接触を最小限に食い止めてくれたとしても、今回ばかりは避けようがない。

 大丈夫――――ここまでは全て想定内だ。
 立ち向かうための準備は万端にできている。

 ラルカはゆっくりとメイシュの方へ振り返った。


「お久しぶりです、姉さま」

「ええ、久しぶり。数カ月ぶりに可愛いラルカに会えて嬉しいわ。
それにしても、チャリティーイベントだなんていうから、一体どんなものかと思って来てみたら……すごい盛況っぷりじゃない」


 感嘆の声を上げつつ、メイシュがぐるりと会場を見回す。


「ええ。予想以上に多くの方に足を運んでいただけて、わたくしも驚いていますわ」

「そうよねぇ。まぁ、貴女のドレスを貸し出したのだし、当然の結果かしら?
だけど、本当は私嫌だったのよ? 可愛い貴女のドレスを他人に貸すなんて。だって、ラルカじゃないと似合わないもの! 
けれど、ソルディレンさまがどうしてもと仰るし、今のうちに王家に恩を売っておくべきだって言われたら、ねぇ?」


 そう言ってメイシュは口の端を吊り上げる。