(ああ、どうしてあんなことをしてしまったのかしら……)


 ブースに戻り、一人頭が冷めてから、ラルカは自分の振る舞いを大いに反省した。

 人前であんな――――頬にキスをするだなんて。
 少し前までのラルカならとても考えられなかった。

 自分では良識のある方だと認識していたというのに、恋は人をこうも変えてしまうのだろうか?
 火照った頬を仰ぎつつ、ラルカは一人百面相をする。


 きっと今頃、エルミラはお腹を抱えて笑っていることだろう。
 ブラントは頬を真っ赤に染めていたし、ラルカと同じように恥ずかしさで悶絶しているかもしれない。
 しばらくの間は、同僚たちからも大いにからかわれることだろう。


(だけど、それでも、どうしてもブラントさまを盗られたくなかったんだもの)


 イベントに来ているのは平民だけではない。
 エルミラとアミルが主催のイベントとあって、高位貴族の令嬢たちも多く訪れているのだ。
 二人の婚約が知れ渡っているといっても、せいぜい騎士や文官を務めている者たちの間だけ。少しぐらい、牽制したくなるというもの。


(ダメだわ。これじゃ独占欲丸出しじゃない)


 首を横に振りつつ、ラルカは熱い息を吐き出す。
 早く平静を取り戻さなければ――――そう思ったその時だった。