その場から数歩離れ、南側のブースに二人で向かう。
 ブラントは切なげに眉を寄せながら、ラルカの両手をギュッと握った。


「ラルカ。もしも僕が――――金輪際、僕以外の男性の手を握らないでほしいと言ったら、貴女はどう思いますか?」


 ブラントの瞳が、どこか自信なさげに揺れている。ラルカは思わず吹き出してしまった。


「まぁ、ブラントさまったら……」

「やっぱり幻滅させてしまいましたか? 嫉妬なんてみっともないと。けれど僕は……」


 シュンと肩を落とすブラントの姿は愛らしく、ラルカは首を横に振る。

「いいえ、ブラントさま……わたくしも先程、同じ気持ちでしたから」

「…………へ?」


 いつも冷静なブラントらしからぬ素っ頓狂な声音に、ラルカはクスクスと笑ってしまう。


「わたくしも、ブラントさまが他の女性に触れるのは嫌です」


 背伸びをし、頬に触れるだけのキスをする。
 周囲から悲鳴にも似た黄色い声が上がった。