ふと見れば、領地から取り寄せた小さなピンク色のドレスに、幾人もの女の子たちが身を包んでいた。


「ねえお母さん、どうやったらこんなドレスがたくさん着れるようになるの?」

「わたしもお姫様になりたい!」

「わたしはドレスを作る人になりたい!」

「あっちで絵、描いてもらおうよ!」


 皆とても嬉しそうに笑い声を上げ、鏡を見ながら何度も何度もターンしている。

 ラルカはずっと、着飾ることが苦痛だった。面倒で、意味のないことだと思っていた。苦しいコルセットは、フリルやレースは、まるで彼女自身を縛り付ける鎖のようにすら感じていた。

 けれど、ここに居る人々は、着飾ることを楽しいと、幸せなことだと認識してくれている。
 ラルカにとっての苦痛が喜びに、将来の希望になってくれるのなら、こんなにも幸せなことはない。

 なりたい自分を描くというのは大切なことだ。今日という日がこの子達にとって、自分がどんな生活を送りたいのかを考えるキッカケになってくれれば良いとラルカは思う。


「――――ありがとう、お姉さん!」


 女の子の、嬉しそうな声が聞こえてくる。満面の笑み。ほんの少しだけ背伸びをして、紅い口紅を塗ってもらったようだ。

 ラプルペ邸の侍女たちも、たくさんの人に喜んでもらえて、とても嬉しそうに笑っている。
 本当は、ラルカもあんな風に『ありがとう』と伝えるべきだったのだろう。


(今からでも遅くはないかしら?)


 そんなことを思いつつ、ラルカはそっと伸びをした。