「これでも普段より抑えてもらってますのよ? 本来ならば、化粧と着替えで三時間はかかりますの。けれど、今日は時間も限られておりますし、後々、沢山の女性にメイクをしてもらうことになりますから」


 とはいえ、短時間でもさすがの腕前だ。仕上がりを確認しつつ、ラルカは穏やかに微笑む。


「良かった……貴女は絶対断ると思っていたの。私と一緒に着替えやメイクをすること」


 エルミラは侍女たちに礼を言ってから、ふわりと優雅に立ち上がる。
 苦笑いをしつつ、ラルカも一緒になって立ち上がった。


「イベントを成功させるためですもの。このぐらいどうってことはありません。
エルミラさまが仰るように、子供たちに『こんな格好をしてみたい』『こんな風になりたい』と思えるお手本を用意するのも大事なことですわ」


 この数ヶ月間、一度も袖を通すことのなかったピンクのドレスに身を包み、エナメル製のヒールを履く。髪は高く結い上げ、とても華やかに仕上げた。

 唯一、髪飾りだけはブラントが贈ってくれたものを挿している。ほんの僅かではあるが、ラルカの自己主張の表れだ。これを身につけているだけで、どんな格好をしていても、自分を保てているような気がしてくる。ラルカはもう一度鏡の中を自分を確認し、ニコリと微笑んだ。


「さて、参りましょうか!」


 気合は十分。
 エルミラはそんなラルカを、満足そうに見つめていた。