ここであっさり引き下がっては、ブラントに会うことができなくなる。
 ラルカはずいと身を乗り出し、騎士たちを必死に見上げた。


「あの、ソルディレンさまは――――ブラントさまはご在室でしょうか? わたくし、ブラントさまに書類を託したいのですが……」

「え? ブラント、ですか?」

「はい。エルミラさまにも彼に渡すようにと強く言付けられておりまして……」


 ようやくそこで騎士たちは、ラルカの来訪目的に気づいたのだろう。困ったように微笑みつつ、互いに顔を見合わせる。


「かしこまりました。すぐに呼んで参りますので、少々お待ちいただけますか?」

「はい、お願いいたします」


 良かった。なんとか意図が伝わったようだ。
 ホッと胸を撫で下ろしながら、ラルカは息を整える。

 取次の騎士が執務室に入って僅か数秒後のこと。バン! 大きな音を立てて扉が開いた。


「ラルカ!」


 ブラントだ――――そう思う間もなく、ラルカは勢いよく抱きしめられる。

 ふわりと香る汗の香り。いつもきっちりと揃えられたヘアスタイルや服装も、今日はどこか草臥れていて精彩を欠いている。

 けれど、何故だろう。
 ラルカはそんな彼のことを愛おしく思った。


 ブラントをギュッと抱き返しつつ、胸に顔を埋める。心地よい心臓の音が聞こえ、酷く安心した。