(何か、わたくしに出来ることはないのかしら?)


 メイシュの件でブラントがそうしてくれたように、ラルカも彼の負担を取り除いてやりたいと心から思う。

 けれど、ラルカに出来ることは殆ど無い。
 ブラントは有能だ。大抵のことは既に自身で手配をしていて、ラルカが口を挟むスキすらないのである。


 まだ帰ってこないのだろうか――――隣の部屋の気配に耳を澄ましていた筈が、気づけば朝日が輝いていた。

 ラルカはため息を吐きつつ、身支度を整える。
 凹んだ表情をしていては、ブラントに要らぬ心配をかけてしまう。
 いつもよりもしっかりと頬紅を塗ってから部屋を出た。


「え……? ブラントさまはもう、屋敷を出られたのですか?」

「はい。仕事の都合でどうしても、急がなければならないと……」


 使用人はそう言って、申し訳無さそうに表情を曇らせる。ラルカはシュンと肩を落とした。


「そんな……。せめて声をかけてくださったら良かったのに。見送りぐらいはさせていただきたかったわ」

「申し訳ございません、お嬢様。私共もそう申し上げたのですが、旦那様が『お嬢様にはしっかりとお休みいただくように』と仰られて」

「……そうでしょうね」