ブラントに今の気持ちを伝えてみよう――――ラルカがそう意気込んだのも束の間、彼は多忙のため、帰りが遅くなるようになった。
 残業でお疲れのブラントに、畏まった話をするのは憚られる。はじめはそう思っていたものの、彼の帰りは日に日に遅くなっていき、ついには顔を合わせる頻度まで減ってしまった。


「お嬢様、どうかそろそろお休みください。私どもが旦那様に叱られてしまいますわ」

「ありがとう。けれど、ブラントさまは今も仕事を頑張っているのだし……」


 せめて『おかえり』と――――『お疲れ様』と言ってあげたいとラルカは思う。


「お気持はわかりますが、旦那様からは出迎え不要と固く言いつけられております。ですから、お嬢様は早くお休みください」

「……そう。分かったわ」


 ここで意地を張り、使用人たちが叱られてしまっては気の毒だ。ラルカは渋々部屋に戻る。


(ブラントさまは大丈夫かしら?)


 元々忙しかった筈なのに、ブラントは今、チャリティーイベントの責任者まで務めているのだ。
 一体彼が何時に帰っているのか、休憩は取れているのか、とても心配になってしまう。
 ブラントを事業に巻き込んだ人間が他でもないラルカだけに、何とも申し訳ない気分だ。