『貴方がこんなに頑張っているんですもの。わたくしもきちんと、自分の気持ちと向き合ってみたいと思います。仕事も――――人に言われたことをするんじゃなくて、わたくしに求められているのは何なのか、考えてみます』


 自分とはなんなのか。
 選ぶとはどういうことか。


 人形のような人生が当たり前だった。それで良いと思っていた。
 どれでも良い。
 何でも良い。
 失敗をしても、成功しても、何も感じることはない。


 けれど、それじゃいけない。
 このままじゃいけない。


 自分の人生に責任を持たなければ。
 本気を出して生きなければならない。


(わたくしを変えたのは、ブラントさまだったのね……)


 悔しげに涙を流す幼い日のブラントを見て、ラルカは『変わりたい』とそう思ったのだ。
 記憶が鮮明に蘇り、ラルカの心がぶるりと震える。
 ブラントはラルカの両手をギュッと握った。


「――――もしもあの時ラルカに出会わず、騎士を辞めて文官になっていたとしたら……僕は今頃、アミル殿下にお目通りすら叶っていなかったと思います。大した仕事も任せられず、周囲を責め、漠然と仕事をこなしながら生きていたことでしょう」

「ブラントさま……」
 
「僕はラルカと出会ってから、自分の選択を誇れるようになりました。心から誇れるよう、生きていきたいと思いました。
ラルカが認めてくれた僕だから――――もう一度自分を信じてみようと。腐らず、一から頑張ろうと思いました。
ラルカが僕を変えてくれたのです」


 ブラントの微笑みは至極温かい。その温もりを味わうようにラルカはそっと目を瞑る。