「ブラントさま、だけど、あの……貴方を変えたというのは、本当にわたくしなのでしょうか? なにかの間違いではございませんか?」


 それは、先程からずっと気になっていたこと。
 残念ながらラルカには、思い当たる節が全くない。ブラントが一途に想ってきたのは、実は別の女性なのではなかろうか。だとすれば、あまりにも申し訳ないことだが――――。


「『少なくとも貴方は、ご自分の道を自分で選んでいらっしゃるじゃありませんか』」

「…………え?」

「三年前、初めて出会ったその日に、ラルカが僕にくれた言葉です。
あの頃の僕は、プライドが高く、幼く、それから傲慢でした。実力も経験もなく、生意気で――――先輩たちに毎日厳しい言葉を投げかけられ、しごかれ、それから腐っていました。
こんなはずじゃない! 僕を認めない彼奴等が悪いんだ! そんな風に嘆いていたとき――――僕は貴女に出会ったのです」


 ブラントはそう言って穏やかに微笑む。
 ラルカは「あっ」と小さく息を呑んだ。


『わたくしはね、姉さまが【そうしろ】と言うからここに来たんです。
ドレスも靴も、髪型もお化粧も、毎日姉さまや侍女たちが言うとおりにするの。だから、迷うことなんて一つもなかったのよ?
けれど、エルミラさまや他の侍女から【それじゃダメよ】と教えられて。どうしたら良いのか分からなくなってしまって……』


 星空の下、自分と同じぐらいの身長をした男の子と、そんな会話を交わした記憶が蘇ってくる。