「――――本当はあの時『僕と結婚してほしい』とラルカに伝えるつもりでした」

「え?」


 予想だにしないことを言われ、ラルカは思わず目を丸くする。


「婚約者候補はあくまで候補でしかない……ラルカが誰を選ぶか、あの時の僕は気が気じゃありませんでした。
けれど、僕はどうしてもラルカと結婚したい。貴女を誰にも渡したくない。
ですから、正直に気持ちを打ち明けようと――――僕を選んでほしいと伝えたくて、あの日貴女の後を追ったのです。
けれど、貴女は結婚自体を望んでいなくて……」


 切なげな表情。ラルカは小さく目を瞠る。
 あの時ブラントは、一体どんな気持ちだったのだろう? 彼の気持ちを想像すると、何だか苦しくなってしまう。

 ラルカの考えに気づいたのだろう。ブラントは小さく首を横に振った。


「ラルカが気にする必要はありません。結婚したくないという貴女の想いは、尊重されて当然のものですから。寧ろ、本心が聞けて良かったと思っています。
けれど、これだけは知っておいてください。
僕は自分の意志で、貴女の婚約者になることを選びました。
いつか、貴女が誰かと結婚する日が来るなら、相手は僕でありたい――――あの時も、今も、心からそう思っています。
他の誰にも渡す気はありません。それがアミル殿下であっても」


 熱っぽく見つめられ、手の甲に恭しく口付けられ、ラルカの身体が熱くなる。恥ずかしさと驚きのあまり、どこかへ走り出したい気分だ。
 けれど、ブラントはラルカを逃がす気はないらしい。がっしりと腰を抱かれ、手を握られてしまっている。