(ブラントさまが、わたくしを?)


 俄には信じがたい話だが、彼が嘘を吐いているとも考えづらい。真っ赤な頬、早い鼓動、熱い眼差しが彼の想いを如実に物語っている。ブラントの身体は緊張のせいか、小刻みに震えていた。


「けれど、ようやく僕がアミル殿下の側近になれた頃には、ラルカは既にその頭角を存分にあらわし、妃候補になっていらっしゃいました。
あのときは本当に焦りましたし、彼の側近になれて良かったと心から思いました。
もしもアミル殿下がラルカを指名してしまったら、僕がラルカと結ばれることは永遠になくなってしまいますから」

「そ、れは……」


 絶対に無かったとは言い難い。
 アミル自身が、もしもブラントが居なければラルカと婚約を結んでいただろうと話していたぐらいなのだから。


「以降も、並み居るライバルたちを抑え続け、貴女の婚約者候補に躍り出るのはとても大変でした。ラルカはご覧になっていないようですが、僕は貴女のお姉さまが用意した釣書きの中に――――候補の中に入っていたのですよ?」

「そう、なのですか?」

「ええ。だからこそ、婚約を提案したあの日、僕は貴女が婚約者を探していることを知っていたのです」


 思い起こしてみれば、確かにあの時、ブラントはラルカが婚約者を選んでいる最中だと知っていた。噂になっているのかと邪推したものの、真相はなんてことはない。単にブラントがラルカの婚約者候補であり、彼女との結婚を強く望んでいたからこそ、内情を知っていたというだけだったのだ。