「アミル殿下からお聞きしたのです。貴方は三年も前から、一途に一人の女性を思い続けているのだと。結婚を心から望んでいらっしゃるのだと。
それなのに、わたくしが悩みを打ち明けたから――――貴方の気持ちに嘘を吐かせて、仮初の婚約まで結ばせてしまって。
本当に……本当に申し訳ございません!」


 ラルカはそう言って、床に擦り付けんばかりに深々と頭を下げる。ブラントは思わず目を見開いた。


「……え?」


 何が、どうして、ラルカはそんな思い違いをしているのだろう?
 ブラントは困惑しつつ、ラルカを呆然と見つめる。


「ブラントさまは優しいから、わたくしを放っておけなかったのでしょう?
わたくし本当に、なんとお詫びを申し上げたら良いか……」


 はじめから、二人の関係は等価交換などではなかった。
 ラルカだけが得をする、一方的な関係だった。
 けれど、彼はそんな様子をおくびにも出さなかった。
 そんなブラントの優しさに、どれほど救われたことか。

 ラルカはブラントに向かって、ひたすらに頭を下げ続ける。


「ラルカ、それは違います。僕は……」


 あまりにも苦しげなラルカの表情。ブラントはゴクリと唾を飲む。

 このままではいけない。

 彼は大きく息を吸い、逡巡し――――それから腹を決めた。

 ラルカの顔を上向け、真っ直ぐに見つめる。


「ラルカ、やはり謝るのは僕の方です。
確かに僕は嘘を吐いていました。
僕にはずっと結婚を望んでいる人が――――心から愛している女性が居ます」