「殿下――――貴方まさか、ラルカに変なことを吹き込んでないでしょうね?」


 疑問口調ではあるものの、その瞳は確信に満ちている。

 ブラントはラルカの表情が浮かないことに気づいていた。あまりにも些細な変化ゆえ、他のものには――――エルミラにすら気付けないだろうが。

 怪訝に思いつつ、アミルは小さく首を傾げる。


「変なこととは大げさな。俺はただ、ラルカ嬢が俺の妃候補だったことを伝えただけだ」

「なっ……!? 本当に一体、何てことを! そんなこと、今更言う必要ないでしょう!? ラルカが気に病んだらどうするんですか! 大体、もしもラルカが妃になることを望んでしまったら……」


 ブラントはグッと言葉を呑み込みつつ、ラルカを庇うようにして前に立つ。


「だが、事実だろう? おまえが『絶対にラルカを妃に選ばないでほしい』と言うから、ずっと保留になっていただけだ。
けれど、ラルカ嬢本人にだって、知る権利も選ぶ権利もある。
大体、そんなことを根回しするために、俺の側近を目指すバカはそう居ない。お前の覚悟と想いだって、きちんと知ってもらうべきだ――――なあ、そう思わないか? ラルカ嬢?」

「…………え? えぇと……はい、そうですわね?」


 ブラントの背後で、ラルカがそっと首を傾げる。