「殿下、そろそろ良いでしょう?」


 ちょうどその時、頭上から声が聞こえてきて、ラルカはハッと顔を上げた。

 見れば、不機嫌そうな表情を浮かべたブラントがこちらを真っ直ぐに見つめている。

 エルミラは他の人間と交流をしているらしく、今この場には居ない。ラルカは思わず小さく息を吐いた。


「お前は……本当に『待て』ができない男だな。気の短い男は嫌われるぞ、ブラント?」


 アミルは呆れたように笑いながら、満足そうに瞳を細める。
 ブラントは眉間に軽く皺を寄せると、ラルカをグイッと抱き寄せた。


「いいえ、もう十分過ぎるぐらい待ちました! 殿下はときに、碌でもないことをしでかすお方ですからね。エルミラ殿下とお話をしながら、僕は気が気じゃありませんでしたよ」

「失敬な。楽しく交流を深めていただけだぞ。なぁ、ラルカ嬢?」

「ええ、殿下。とても楽しいひと時でしたわ」


 二人に余計な気遣いをさせてはいけない。ラルカはグッと気を引き締め、何でもないふりをして見せる。

 けれど、何故だろう。ブラントは僅かに目を見開くと、アミルのことを軽く睨んだ。