けれど、ブラントの想い人が自分だなんて、ラルカは夢にも思っていない。
 彼の婚約者であることを選びとったのだって、無意識だ。

 さすがのアミルも、ラルカの繊細な感情の動きまでは読み取ることができなかった。戸惑いながらも、彼女は小さく頷く。

 二人の想いは、見事にすれ違ってしまったのである。


(もしかして、はじめてお会いしたあの日も、ブラントさまはエルミラさまに会いたかったのかしら……)


 過ぎし日のやり取りを思い返しつつ、ラルカはそっと胸を押さえる。

 ブラントはただ、恋しい人に一目会いたかった。
 だから、ラルカをエルミラの執務室まで送ろうとした。

 けれど、ブラントは道すがらラルカの苦悩を聞かされて――――優しい彼は、困っているラルカを放っておけなかった。

 ブラントが自分の想いに嘘を吐いてまで、ラルカの仮初の婚約者になってくれたのだとしたら――――。


 絶望がラルカの胸を突く。
 ブラントに対して、あまりにも申し訳なかった。