メイシュに結婚を命じられて、二週間が過ぎた。
 ラルカは未だにどうしたら良いものか、考えあぐねている。


(こんなこと、誰にも相談できないわ)


 仕事を続けたい。
 結婚をしたくない。
 自分の自由な生活を守りたい。

 それらは貴族としては異質の願いなのかもしれない――――一応、そういう自覚はある。

 とはいえそれは、ラルカにとって重大で、ゆずれない願いだ。
 誰かに理解してほしいわけではないし、わかってもらえるとも思っていない。

 エルミラたちなら或いは味方をしてくれるかもしれないが、下手に話せば、メイシュに今すぐ仕事を辞めさせられる可能性もある。


 そういうわけで、ラルカは今日も今日とて結論が出せずに居た。


「――――それでは、確かに承りました」


 気分が沈んだまま、エルミラのお遣いを淡々とこなす。外の空気を吸ったほうが気が晴れるだろうと志願したというのに、てんでダメだ。

 お遣いに向かった先はエルミラの兄、王太子アミル殿下の執務室で、彼の側近たちに書類を渡せば仕事は完了。ため息を吐きながら、エルミラの執務室へと戻る。


「僕がお部屋までお送りしましょう」


 そう言って、一人の騎士がラルカを追う。

 星のようにまばゆい銀髪の、とても美しい青年だった。夜空のような色合いの紫色の瞳、スッキリとした目鼻立ちに、スラリとした体躯の持ち主で、見ているだけで眼福だ。おまけに、声音までもが蕩けるように甘い。

 王太子アミルの近衛騎士らしく、どことなく見覚えはあるものの、名前までは知らない。エルミラとアミルは兄妹だが、仕事上の関わりはそこまで多くないからだ。

 忙しかろう――――ラルカは断ろうとしたが、「是非に」と言われ、厚意に甘えることにした。