「どうやら本当に知らなかったようだな――――エルミラは律儀に約束を守っていたらしい。
だが、もしもブラントが居なかったら、君は今頃俺の婚約者だっただろう。
或いは――――順番が入れ替わっていたなら、結果は大きく変わっていたに違いない」

「え? どうしてここでブラントさまのお名前が……?」


 思わずそう呟いたものの、それより、最後の含みのある発言の方が問題だ。


(順番が入れ替わっていたなら、ってどういうことなのかしら?)


 ラルカは首を傾げつつ、しばし考えを巡らせる。
 けれど、アミルは答えをくれる気はないらしい。意地悪い笑みを浮かべつつ、ラルカのことをじっと観察していた。


「なぁ、ラルカ嬢。ブラントと君は仮初の婚約者なのだろう?」

「……どうしてそのことを? ブラントさまにお聞きになったのですか?」


 肯定の意味を込め、アミルはゆっくりと頷く。
 ラルカと同じように、ブラントの方もアミルに事情を打ち明けたらしい。多少の困惑を覚えつつ、ラルカはアミルを見上げる。


「俺は君の事情を――――ブラントと交わした約束を知っている。
その上で君に問おう。
ラルカ嬢。
今、俺が『妃になってほしい』と尋ねたら――――君は一体、なんて答える?」