「ブラントさま……?」

「――――また、後で」


 他に言いたいことがあったのだろうか? ブラントはそう口にして、どこか困ったように笑う。
 何故だろう。
 なんてことない一言なのに、ラルカの心は大いに揺さぶられてしまう。


「はい、また後で」


 彼と同じ言葉を返し、ラルカは穏やかに目を細める。
 去りゆく二人の後ろ姿を見守りつつ、アミルが小さく息を吐いた。


「お前の婚約者は過保護だな」


 頭上で響く呆れたような声音。なんと返事をすべきか迷いつつ、ラルカはそっとアミルを見上げた。


「――――仕方がないか。あいつは俺のことが余程信用できないらしい」

「まぁ、そんなことは……ブラントさまは殿下のことを心からお慕いし、尊敬していらっしゃいますわ」


 短い付き合いだが、ブラントがアミルを信用していることは疑いようがない。思わず身を乗り出せば、アミルは「いや、違うんだ」と首を小さく横に振った。