(このまま姉さまが領地に帰るまで乗り切れれば……!)


 そんな風に思うものの、メイシュは一向に動こうとしない。ラルカを着飾って楽しみながら、優雅な王都生活を謳歌している。

 ラルカには、メイシュの目的が何なのか、皆目見当がつかない。


 けれど、そうして二週間が過ぎ去ったある日のこと、事態が唐突に動き出した。


「お見合い……?」

「ええ! 貴女もそろそろ、結婚すべき頃合いだと思うの」


 ニコリと満面の笑みを浮かべ、メイシュはラルカの頬を撫でる。


「侍女なんていつまでも続けられる仕事じゃないでしょう? 貴女は誰よりも可愛いけれど、あれは若い令嬢のポジションだものね。
それよりも、良い人と結婚して、夫人として社交に勤しむのが、これからの貴女が目指すべき姿だと思うの」


 もっともらしい姉の主張に、ラルカはしばし呆然としてしまう。


「けれど姉さま、わたくしはもっと今の仕事を頑張りたい! エルミラ殿下や国の役に立ちたいですし、働くことが楽しいのです」


 そもそも、この国において結婚は義務じゃない。

 貴族の結婚には何かと金が掛かるし、ラルカは次女。十八歳になるまで婚約のコの字も出てこなかったし、無理にする必要もないと思っていた。

 第一、女性の場合、結婚以降は殆どの人が仕事を辞めてしまう。辞めなきゃいけないという決まりはないが、当然辞めるものという風潮がある。
 結婚後も王族の教育係や乳母として働く女性も居るが、タイミングの関係もあるし、今よりもずっと狭き門だ。