「僕と婚約しましょう」


 銀髪の騎士がラルカに言う。かろうじて見覚えはあるものの、名前も知らない男性だ。
 彼が提案したのは『結婚』ではなく『婚約』。
 呆然と目を見開くラルカに、男はそっと身を乗り出す。


「結婚したくないのでしょう?」


 彼の言葉はそんな風に続いた。ラルカは目を見開き、騎士をまじまじと見つめる。


「――――貴方と婚約すれば、わたくしの願いは叶うのですか?」


 まるで絶望の中に見出した一筋の光のよう。
 男は微笑みを浮かべ、コクリと力強く頷く。
 ラルカは瞳を輝かせた。


***


「ラルカ、こっちの書類もお願いできる?」

「はい、エルミラ様」


 広々とした執務室の中、ラルカのブロンドが活き活きと揺れる。

 薄紅と金色を基調とした、城の中で最も美しく華やかな空間。
 この部屋の主は王女エルミラ。まだ十四才と年若いものの、精力的に公務をこなす、美しい少女だ。
 様々な式典や行事に顔を出し、文化、慈善事業等も手掛けながら、国家の顔として、王家の一翼を担っている。


 そんな多忙な彼女が文官として重用しているのが、伯爵令嬢ラルカ・ラプルペだった。