トントン……
インターホンもないアパート
ドアがノックされるたびに
もしかしてレーニャかな…って思ってしまう
あれから大家さんが何度か来た
レーニャちゃんに教えたい料理があるから
また来てほしいって
ごめん、大家さん
俺はそれをレーニャに伝えることはできない
いとこでも何でもないから
トントン…トントン…
「はーい…」
大家さん、今日は何の用だよ
え…
誰?
ドアを開けたら
大家さんじゃなかった
スーツを着たグレーヘアの男性
「ゆうや…さん?でしょうか?」
「はい…そうです、けど…」
「優里愛様が大変お世話になったそうで…
わたくし、優里愛お嬢様の使用人
堺(さかい)と申します
お嬢様からこちらをお聞きしました
突然の訪問で失礼します」
レーニャ…
「ゆりあ…
…
あ、あの…レー…
あ、元気ですか?
今、元気なんですか?」
聞きたいことがいくつも浮かんだ
レーニャは今
どこにいて
何をしてて
自分のことは思い出せたのか
幸せなのか
笑ってるのか
また、ここに来ることはあるのか
「おかげさまでお元気です
旦那様も奥様もとても感謝しております
ありがとうございました
…
旦那様からお預かりしてきたものがあります
どうかお受け取りください」
封筒を差し出された
なに?
とりあえず
出された封筒を受け取った
手紙?にしては厚い封筒
「優里愛様がこちらにお世話になったぶんの
生活費だそうです
足りないようでしたら
中に入っている名刺までご連絡ください
それから
優里愛様を無事に保護していただいたぶんの
謝礼を振り込みたいそうなので
希望額と銀行口座をお聞きしたいのですが…」
生活費?
謝礼?
「や、そんな謝礼とか生活費とか
別にそんなの…いりません
…
元気なら、それでいいです」
「最近は少しずつ記憶を取り戻してまして…
徐々に元の生活に戻りつつあります」
やっぱり記憶喪失だったんだ
「それなら、よかったです」
「来週退院予定で、学校にも通えそうかと…」
「退院?病院にいるんですか?
レーニャ…優里愛さん、どこか悪いんですか?」
「検査入院です
1ヶ月もの間、行方不明だったので
旦那様と奥様が心配しまして…
特に大きな病気もなく
妊娠もしてなかったようです」
「妊娠て…」
「一応、年頃の男女ですし…
優里愛様には妊娠検査とは言ってませんが…」
年頃の男女?
俺、疑われてる?
「そんな!俺は何も…」
ホントに何もなかった
疑われてることに少し苛立った
「念の為です
優里愛様がゆうやさんに
よろしくとのことです」
「レー…優里愛さん、が…俺に…?」
「ゆうやさんとの1ヶ月を
とても楽しそうに奥様にお話していました」
レーニャ…
それだけで俺、泣きそうになる
レーニャに会いたくなった
「レー…優里愛さんは
どこの病院にいるんですか?」
「それは…」
「お願いします!教えてください!
最後、ちゃんと話もできなかったし…
最後にするので!
お願いします!」
レーニャの顔が見たい
レーニャが楽しかったって
話してくれてるなんて…
レーニャも俺に会いたいとか
思ってくれてるかな?



