「お嬢さんを俺にください!」


「ユーヤ…」



スマホから顔を上げたレーニャから
無邪気な笑顔は消えてた



レーニャの様子で間違いじゃないって
確信したけど



「レーニャ…
それ、レーニャなの?」



最後まで
違うよっていう答えを期待した



「うん…私、だね…」



どことなく他人事のような言い方


まだ実感わかないのかな?


それは俺だよ



「レーニャ…なんで…」



なんで隠してた?

俺に嘘ついてた?

俺を騙してた?



聞きたいことがありすぎて
何をどぉ聞けばいいか迷った


なんか事情がありそうだし
レーニャだってショックかもしれない



「私がここにいたら
ユーヤ、捕まっちゃう?」



目の前のレーニャは
動揺してた



「ん…どーだろ…
レーニャはそんな心配しなくていいよ」



事件とかなってるし
逮捕とかなくない話だけど

レーニャを不安にさせたくなかった



「ごめん、ユーヤ」



ごめん…て
どの部分で?


レーニャがここにいて
俺が捕まるかもしれないこと?

レーニャが俺に嘘をついてたこと?
素性を隠してたこと?


そんなのは別に謝らなくてもいんだ



レーニャがここからいなくなること
それが1番嫌だ


謝ってほしいなら
そこかな


ずっと一緒にいれなくて、ごめんね…って



俺はレーニャになんて声を掛けたらいいのか


レーニャがいなくなったら嫌だけど
ここにいるより帰った方が幸せなはず


レーニャの最善を考える



「レーニャ、大丈夫?
家族とか、心配してるんじゃない?」



社長令嬢なのに
こんなボロアパートで1ヶ月も生活して
居心地悪かっただろうな…


きっとレーニャは
窓際に掛かってるドレスに見合うような生活を
してたんだ



名前とか素性を俺に教えなかったのは
何か理由があるのかもしれないけど

レーニャは帰った方がいい



「心配してるかな?
私、自分のこと思い出せなくて…」



「え…?」



それも、嘘?

とかレーニャを疑ってしまう



好きな人を信じられないとか
サイテーだ


でも今までの事とか
いろいろ含めて少し疑ってしまう



「あの日、夢中で走って
雪が降ってきて寒くて…

もぉダメ…って思ったら
『幸福荘』って門に書いてあって…

ここにいたら幸せになれる気がして…

それしか記憶がなくて…

その前のことが
ぜんぜん思い出せないの」



「そんな…」



レーニャが信じられないんじゃなくて

たぶん信じたくなくて



「でも優しい人が拾ってくれて
毎日優しくしてくれて
楽しかった

あ、ごめん…
楽しかったのは私だけかな

ユーヤに迷惑かけてた
本当に、ごめんなさい
もぉこれ以上迷惑かけない」



楽しくなかったわけない

迷惑なんかじゃない



でも…



「迷惑とか、思ってなかったけど
社長令嬢って…
こんなアパートにいるより
帰った方が絶対幸せじゃん

レーニャ、ずっと辛かったんじゃね?
思い出せなくて
ずっと辛かったよな、レーニャ

1ヶ月も…家族もみんな心配してるよ」



レーニャはよかったのかもしれない

やっと家族に会えるよ



俺は…

ここからレーニャがいなくなるのがヤダ



でも
レーニャは帰った方が幸せに決まってる



「思い出したくない気がする

ここにいた方がいい気がする」



え…



レーニャの言葉は嬉しかった



でも言わなきゃ



「そんなことないよ、きっと

帰ったら思い出せることもあるかもだし
ここにいたらダメだ

レーニャ…


帰った方がいいよ」



帰った方がいいよ



言いたくなかった



1番言いたくない言葉



レーニャ、ずっと一緒にいよう

本当はそう言いたかった



「うん…わかった…」