「これでどうかしら!」
 ライラ様のはしゃいだ声が銀世界のような屋敷の庭に響く。

 真冬の辺境は雪が深く積もる。
 それを珍しがるのは赴任直後で初めてここで冬を迎える隊員ぐらいで、我々のように長年辺境暮らしを続けている人間にとっては退屈極まりない季節だ。
 しかし今年は違う。

 約束通り、ライラ様が遊びにいらしたためだ。
 長期の旅行から戻られたマリエル様の両親とも初対面したのだが、母上であるダイアナ様とは初日から意気投合し、翌日は丸一日ダイアナ様がライラ様を独占する形になってしまった。
 まるで本当の母娘のように楽しげにドレスを選ぶ姿は何とも微笑ましく、このお二人に限っては「嫁姑問題」などどこ吹く風になりそうだと胸をなでおろしていたのだが、そんなおふたりをおもしろくない様子で見ていた人物がいた。

 我が主だ。
 ライラ様が到着する数日前からソワソワして鬱陶しいことこの上なかったのだが、待ちに待った到着直後にダイアナ様に掻っ攫われてしまった。
 前回のライラ様のご訪問の際に留守にしていたことを残念がっておられたダイアナ様いわく
「マリエルは前回さんざんライラちゃんとイチャコラしたらしいじゃないの。次は私の番よっ!」
とのことで、悪びれる様子はまったくなかった。

 そしてようやくライラ様とゆっくり過ごせるようになったのが3日目の今日である。

 ふたりが仲睦まじい様子で雪だるまを作っている。
「これでどうかしら!」
 はしゃいだ声で言ったライラ様お手製の雪だるまは、小枝と木の実でとても可愛らしい顔立ちに整えた微笑ましい出来栄えだ。
 初めて作るにしてはセンスがいい。

 その横に視線を移すと、そこには悪人面の怖い雪だるまが並んでいた。
 制作者はもちろんマリエル様だ。
 同じ素材を使っているはずのに、どうやったらそんな顔の雪だるまが作れるのか。