カーク様に、昨日どうして馬車から降りたくないと言ったのかと尋ねられ、そのまま主不在の執務室でお話をすることになった。

 思い返せば昨日は上手くいかないことばかりだったのだ。
 わたくしは一刻も早くマリエル様にお会いしたくて、とにかく先を急ごうとしていた。

 だって、いつおじい様にバレて連れ戻されるかとヒヤヒヤしていたんですもの。
 それなのにメイドのアニーが、休憩しましょうだの忘れ物をしましただの、麓の街まで到着するのにやたらと時間がかかってしまった。
 すんなりいけば昨日の朝には到着して午前中にここまで来ていたはずなのに!

 麓の街の手前の宿場でアニーが喉が渇いて仕方ないとゴネるものだから、これが最後の休憩よと念押ししてカフェに入った。
 そこでなんとアニーが粗相をしてティーカップをひっくり返してしまったのだ。
 お互い火傷はせずに済んだものの、わたくしのドレスは紅茶のシミが残る悲惨な状態になった。

 お姉様の嫁ぎ先には「ちょっとお出かけしてきます」というすぐに戻るようなテイで話して少量の荷物で出てきたため、ドレスはこの一着しか持っていなかった。
「申し訳ございません。麓の街には服飾店があるようですから、そこで新しいドレスを買いましょう」
 アニーにそう言われて渋々許したものの、お日様がもう西に傾きかけていたことにため息をつかずにはいられなかった。