朝食後、ライラ様は約束の時間通りやって来た。緊張した面持ちで唇を強く引き結んでいる。
 執務室の中では、正装の軍服を着たマリエル様をはじめ幹部一同が待っている。
 ライラ様は扉の前で小さくため息をつくと、こちらへ視線を巡らせて開けるよう促した。
 
 扉を開けると、ライラ様を一目見たマリエル様が一瞬ぐっと言葉を詰まらせたが、すぐに気を引き締め直して敬礼し、一同がそれに倣って敬礼した。

「我がモンザーク家へようこそおいでくださいました。私は当主であり、国境警備隊のたいちょ……」
 マリエル様の挨拶を途中で遮ったのは、ライラ様だった。

「マリエル様っ!!」
 驚いたことに、彼女はまっすぐ小走りでマリエル様に近づくと、その広い胸に抱き着いたのだった。

 まさか刺し違えるつもりか!? と一瞬全員が身構えたが、彼女が何も武器を携帯していないのは確認済みだ。拳ひとつでボス猿に立ち向かうのも現実的ではない。

 一体どういうつもりだと見守っていると、マリエル様が丸太のように固まったままゆっくりと後ろに倒れ始めた。
 両脇にいた幹部がそれを支えようとして一緒に倒れマリエル様の下敷きになる。
 そのおかげでライラ様は何の衝撃も受けずに無傷で、マリエル様の腕に収まったままだ。

「マリエル様? どうなさったのですか?」
 ライラ様が体を起こし我が主の頬をぺちぺち叩いているが、反応はない。

 マリエル様は、目を見開いたまま顔を真っ赤に染めて気を失っていたのだった。