やれやれと思いながら立ち上がり荷台の外を見ると、マリエル様が地面に倒れているひとりの胸を踏んづけ、残りのふたりの胸倉をつかんで持ち上げていた。
 つかまれているうちのひとり、初老の男の顔に見覚えがある。

 男たちは血の気を失った顔でブルブル震えていた。
 いろんな意味でさぞや怖いに違いない。
 さらったライラ様が暴れたときのために用意していたのだろうか、荷台で見つけたロープを拝借して3人の男の両手を手早く後ろ手に縛りあげる。
 次いで両脚も縛り、荷台に放り込んだ。

 ぐるりとあたりを見回して、ここが麓の街と隣街をつなぐ街道から少し脇道にそれた野原であることを確認した。
 ほかに賊の仲間はいないようだ。
 振り返ると、荷台に一緒に乗りこんだマリエル様が男たちに奇妙なオネエ言葉でこんこんと説教を続けている。

「人さらいは重罪だって知らねえのかですわっ! 逃がしゃしねえから覚悟しやがれですの!」

 だから、いつまでそんな口調なんですか!
 呆れるやら笑えてくるやらで口元を緩ませながら御者台に乗る。

 麓の街へ引き返すべく馬を走らせ始めてすぐに、我々を追ってきた騎馬隊と合流した。
「首尾よく賊は拘束して荷台で隊長が見張っています。あ、中は覗かないほうがいいですよ、いろんな意味で怖いので」
 その忠告に、騎馬隊の隊員たちは意味がよくわからないといった様子で首を傾げていたのだった。