その時、馬車がスピードを緩めて止まった。
 街の入り口にある門に到着したのだろう。
 幌から片手をそっと出し合図を送った。
 マリエル様は再びムシロをかぶせ直し、自分も木箱の陰に隠れる。

「積み荷は何ですか?」
「パール服飾店からの荷物です。領収書もあります」
 外で門番とやり取りしている男たちの声が聞こえる。
「ご苦労様。お気をつけて!」
「あいよ」

 再び馬車が動き始める。
 しばらく進んだところで男たちが御者台ではしゃぐ声が聞こえた。
「なあんだ、検問とかいうからビビったら中の確認もしなかったな!」
「チョロかったなー」

 チョロいのはおまえらのほうだ。
 街から出る馬車は全て荷物の中身をよく点検するよう言いつけてある。
 この幌馬車がスルーされたのは、手で合図を送ったためだ。
 いま頃、パール服飾店の店主は騎士に取り囲まれていることだろう。

 あとはこの馬車の行き先に首謀者が待ち受けているのか、それともさらに馬車を替えてかなり遠くまで運ばれてしまうのか。
 いずれにせよ御者台に乗っている男たちを逃がしはしない。
 モンザーク辺境伯家の領内で悪事を働こうとしたことをせいぜい後悔させてやるからな。