しばらく待っていると店に面した部分の幌が開けられ、ドサっと音がしたと同時に荷台が大きく揺れた。
 はあっというため息が聞こえる。
「重かった。何だよ、本当にこの娘で合ってんのか?」
「でもたしかに何度も『ライラ様』って呼ばれてただろ。しかも銀髪だし」
「体はゴリラじゃねーか! こんなご令嬢いるのか?」
「俺だって知らねえよ。ライラっていう銀髪の娘が試着室に入ったら連れ出せとしか聞いてねえし」
 男ふたりのヒソヒソ声が聞こえる。

「つーか、この大きさだと木箱に入れられねえじゃねーか」
「ムシロをかぶせておくしかねえな」
 思わずククッと笑いそうになって慌てて口を押える。
 
「とにかく気づかれる前にずらかろうぜ」
「そうだな、ここで目を覚まして騒がれると面倒だ」
 男たちは荷台から降りて御者台へと回りった。
 馬車がゆっくりと動き出す。

 おそらく試着室の鏡の裏から手を伸ばし、即効性の催眠薬を含ませた布で口を塞いだのだろう。
 その程度で眠るような我が主ではない、眠っているフリをしているだけだと思われる。
 音を立てないようにそっと木箱から出て、ムシロをかぶせられている巨体に近づいた。
「マリエル様?」
 静かに声をかけると、ムシロから銀髪が出てきた。

 幌の隙間から入る薄明りの中でその顔を見て思わず息を呑んだ。

 トーニャが化粧を施したのだろうか。
 その顔は、ダイアナ様にそっくりだったのだ。
 銀髪と顔だけ見れば、女性に見えなくもない。
 ただし体がゴツすぎる。
 荷台に持ち上げるのがさぞや大変だっただろうと、さっきの男たちに思わず同情してしまった。