パール服飾店を出ると、不自然にならないよう注意を払いながら裏道へ回った。
 店の倉庫の扉の前に幌馬車が停まっているのが見えた。

 そこから少し離れた場所でタバコをふかしながら新聞を読む男に声をかける。
「すまない、火を貸してくれないか」
「あいにく持ってないんでさあ。この2本目のタバコで使い切ったんだ。悪いね旦那」
「いや、いいんだ。ちなみに今日はどんな記事が載ってる?」
 男は新聞をパラパラめくりながら面倒くさそうに答えた。
「いいニュースが多いね」
「ありがとう」

 実はこの男、平民に化けた諜報員である。
 このやり取りで、いま幌馬車に誰もいないこととマリエル様が無事に裏口から店内に入ったことが確認できた。
 さらに、賊はふたりということもわかった。
 すでに倉庫の中で待機中なのだろう。
 
 裏通りを通る人影がないことを確認して幌馬車に近寄り、すばやく荷台へと潜り込む。
 中には大きな麻袋や木箱が置いてあり、幸いなことに隠れる場所には事欠かない。当然、賊はかどわかしたご令嬢をこの荷物の陰に隠して運ぶつもりなのだろう。
 一番奥の大きな木箱の中に身を隠した。