「お待ちください。それで本当に女性に見えるでしょうか?」
 無駄な抵抗かもしれないが反論を試みると、トーニャは不思議そうに首を傾げた。
「マリエル様のお顔立ちは大変麗しいので、お化粧の施し甲斐があります。ウィッグをつければダイアナ様によく似た雰囲気になるのではないかと」

 体つきだけを見て怖がられることが多いため、トーニャがしっかりマリエル様の顔立ちを認識して称賛してくれたのは大変喜ばしいことだ。
 そのはずなのに、この状況ではちっとも嬉しくない。
 試しにウィッグと巻きスカートにできそうな布を持ってくると言って張り切った様子で部屋を出て行くトーニャを複雑な気持ちで見送った。

「見た目がどうにかなっても、声や口調はごまかせませんよ。どうなさるおつもりです?」
 見事なバリトンボイスをごまかせるはずがない。
 
 するとマリエル様は、んんっと咳払いをして口を開いた。
「こんにちは。あたし、マリエル。ケチばっかりつけるカークはうぜえですわ。黙りやがれですのよ」

 首を絞められたガチョウのような寄声を聞いて背筋に悪寒が走る。

 ああ、声も口調も最悪だ!
 目の前が真っ暗になった。