Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

「えっ?ここ、廃墟ですよね?」

四十分ほど車を走らせ、桜士が車を止めると雪は戸惑った顔を見せ、言う。車の目の前にあるのは、随分前に廃墟となった病院である。桜士は無言でシートベルトを外し、助手席のドアを開けた。

「話したいことがあるので、ここに連れて来ました。周りに誰かいると面倒なので」

公安警察の時のような冷たい口調になってしまう。雪はまだ戸惑った様子を見せていたものの、車を降りた。

「話したいことって何ですか?」

瓦礫が散乱した荒れ放題の廃病院の中、雪が訊ねる。桜士はタブレットをかばんから取り出し、映像を見せた。病院のあちこちに設置されている防犯カメラの映像である。

「これ、あなたですよね?」

防犯カメラには、注射器を持って五百三号士に入っている様子が映し出されている。その日付けは、元公安の春男が亡くなった日だ。

「何が言いたいんですか?」

雪の顔から笑みが消えていく。桜士は本田凌の仮面を取り、厳しい口調で告げた。

「君ともう一人の共犯者ーーー青羽聖が注射器を持って病室に入っていく映像はいくつもある。君たちが今回の事件を起こしたんだろ?」