その人物ーーー看護助手の雪は嬉しそうに頰を赤らめながら笑みを浮かべる。女性のターゲットに近付く際、この目立つ顔は役立つことが多い。この時は感謝している。

「実は、山村さんとずっと話したいと思っていて……。今日の夜、少し時間ありますか?」

「今日は早番なので、全然ありますよぉ〜!」

予想していた答えに桜士はホッとしつつ、「なら食事でも」と誘う。彼女の勤務表は声をかける前に把握していた。

「絶対今日は残業なんかしませんよ!先生も遅くならないでくださいね?」

「今日は、うちの病院が救急車を受け入れる日ではないのでそこまで忙しくはないと思いますよ。遅れることはないと思います」

嬉しそうに笑う雪に桜士も表面上だけの笑みを返す。そんな二人の様子を、まるで盗み見るかのように見つめる人物の姿があった。



その日の夕方、仕事が終わった桜士は一花たちに「お先に失礼します」と声をかける。

「お疲れ〜!」と庄司が手を振り、「お疲れです!」と一花もふわりと笑っていた。その笑みに鼓動を高鳴らせていると、ヨハンにかばんを押し付けられる。