「なち。俺のこと、こわくなってねぇ?」


「っ!?」


夕凪くんが、私のことを"なち"と呼ぶ。
どうしてだか、その声がすごく優しく感じてしまう。


「は、い……」


と、息が漏れただけの小さな声で返事した。


夕凪くんのことはこわくない。
そう伝える代わりに、私は彼の手を握る。


放課後──約束していた喫茶店に着くと、あの桃ヶ丘の女の子が待っていて……


夕凪くんに連れてくるように頼まれたからと、不思議に思いながらもこの倉庫までやってくる。
そしてそれが罠だと気づいた瞬間、男の人達に口を塞がれ手足を拘束された。


恐ろしかった。
こわくてたまらなくて、叫び声も出なくて、心の中で夕凪くんの名前を何度も何度も呼んだ。


必死の抵抗も虚しく、制服を雑に扱われた時。
まるで心の声までも聞いてくれたかのように、夕凪くんが現れたんだ……。