「……そんな嫌かよ」
「い、嫌じゃない…!です…っ」
夕凪くんの言葉に、反射的に彼の顔を見ていた。
「カメコ!」
「は、い…っ!」
(すごい。憧れの夕凪くんにあだ名をつけてもらってしまった……夢みたいだ……)
"かめこ"
嬉しくて私の口角は知らず知らずのうちに上がりっぱなしになっていた。
別の人に呼ばれたなら、私のことを嫌ってるんだろうと思うのに、夕凪くんだとそう思わない。不思議……
夕凪くんはきっと、どんな人にも同じように接することができる人なんだ。
(すごいなあ……夕凪くんて)
「……そろそろ行くわ。もし遅刻したら俺のせいにしていいから。黒霧のやつに絡まれたっつって」
「…!」
驚いて、ブンブンと横に首を振る。
そんなことしない。
むしろ逆で、もし夕凪くんが遅刻してしまったら…私のせいだ……
そんな不安がどっと募るが、うまく言葉に出せるはずもなく。
「じゃあまたな。俺のストーカーさん」
「…っ…!?」
思わぬ不意打ちを残して夕凪くんは二駅分戻るため、颯爽と階段を駆け上がって行ってしまった。────