すると急に、どデカいバタバタ音が聞こえてくる。
あっという間に教室の扉が開くと、「仁っ」と名前が呼ばれた。
「あれ、ヒデ?ゲンのとこ手伝うんじゃなかったの?」
湊人が聞く。
ゲンの家は弁当屋で、ヒデ達は無料で食わしてもらう代わりにたまに店を手伝っていたのだ。
「陸はゲンのとこ行ったけど、これからは桃女の彼女が手伝ってくれんだろっ」
ゲンには最近彼女ができたらしい。ヒデはわかりやすく不貞腐れ、僻んでいた。
その事実を聞かされた朝からずっとこんな調子。
「てか今はそれどころじゃねーんだよ」
「……?」
「他校の男子が仁に話があるんだと。しかも、超良い匂いのする男だぞ!?お前は男からも好かれんのかよ……?」
何を言っているのかよくわからない。
「俺だって好かれてぇぇ〜〜っ!いや相手は男じゃなくて、俺だって彼女が欲しいんだよ〜〜!」
ここまでヒデが悔しがるほど、彼女ができることの何がいいのかも、俺にはわからない。
今まで誰かを好きになったことがない俺には一生わからないかもしれない。