依頼を受けて二年
家は、完成した。

染谷らしい
温かな家だ。

デザインは、沙良だが。

全てが木の温もりの家で
床暖房から
あちこちに配慮が
されている。

子供達ができても
危なくないように
手狭にならないように
屋根裏部屋や
邪魔にならないような家事室

皆で過ごす
ダイニングリビング
大きな窓
キッチンも広く
使い心地になんら問題ない

お風呂も広く
脱衣場も安全で
暑くもなく
寒くもない
トイレも広い

本当に温かな家だ。


引き渡し前には
全ての入金は終わっていた。

高木さんに家の説明と鍵を
渡してから帰宅した。

彼がその時
どんな顔をして
鍵を受け取り
自分が建てた家を見ていたか
染谷は知らない。

なぜか、染谷自身が
感無量だったからだ。
自分の建て家を自慢するなんて。

高木さんは、家を建てている
間も時間が許される限り
家を見ていた。
何時間も庭の隅に座り
職人の邪魔にならないように
とても優しげな眼差しで。

家の完成受け渡し報告は、
結城課長達にも済ませた。

ただ、家の前を通る度に
灯りがついていないことに
気づいた。

最初は、たまたまだと
思っていた。

だが、二週間が過ぎても
三週間が過ぎても家の灯りは点かず
心配になり土曜日に
伺ってみると
庭に座り家を見ている
高木さんがいた。

ああ、なんだ
やはりたまたまだったのかと
思い、声をかけた。

だが、彼は·····

「この家は、私の愛した人が
考えた家なんです。
とても、私の事を愛して
くれていた。
そんな彼女を
愚かな私は裏切りました。
あんなに大好きで
一緒になりたくて
結婚したのに。
そんな彼女が
大学の時に
いつの日か結婚した時に
こんな家が建てたいの
と、言いながら
沢山のデザイン帳に
沢山書いてくれたのです。
何冊も何冊も
その中から
二人で話しながら決めたのが
このデザイン画でした。
二度と共に暮す事はない
だけど、彼女と夢みた
家を建てたかった。」と。
「おかしいでしょ?」
と、苦笑いをしながら
高木さんは、去って行った。

翌日 彼の住所を調べると
あの家から遠くない
アパートに一人住んでいた。