マンションのエントランスに入ると
疲れた顔の
早都が立っていた。

少し驚いたが
私は早都の横を通り過ぎて
エレベーターを待つ

エレベーターに乗り込むと
早都も手前に入ってきた
エレベーターの中
息が詰まりそうになるが
目を閉じ到着を待つ。

エレベーターが
住む階に着き
鍵を開けて中に入ると同時に
早都も入ってきた。

部屋の中は
片付いてはいるが
何故か居心地が悪く
もう、私の住まいではない用に思えた。

荷物を私の寝ていた部屋に置き
リビングに戻ると
ソファーの横に立っている早都
「コーヒー、入れるから
 座っていて。」
と、言うと
「あっ、俺が。」
と、言ったが
私は、それを無視してキッチンへ。

お湯が沸く間
何度も深呼吸をする。

コーヒーを用意して
リビングに戻り
早都の前に置き
自分もソファーに腰掛ける。

沈黙の中······

私から口を開いた····

「あの女性は、どんな方なの?」
「えっ、ああ····職場のパートの人。」
「そう。職場の人なんだ。」
「えみ、北山さんとは食事を
  していただけなんだ。」
「名前を呼ぶ仲なんだね。」
と、言うとギクッとする早都
「早都は、その人の事が好きなんだね?」
「そんなっ。好きだなんて。」
「気持ちもない人の為に
レストランを探して予約して
私を騙してまで行かないでしょ?」
と、言うと、えっとした顔の早都に
「最初は、分からなかった。
木曜日に仕事がたまるから
残業をする。と、言われて
早都も係長になり忙しくなって
大変だなと思った。
その上、私がバタバタしてるから
家の事も早都がやってくれる事が
増えていたから申し訳ないと。
でも、嘘だったんだね。
彼女と一緒にいたくて
嘘を····平然と嘘をついたんだ。」
話していて惨めだった。

こんな簡単に嘘が言える人だったんだ
と、改めて思い
私の好きだった早都は、
誠実で優しい人だった。
と、涙だが·····
決して泣かないと
思っていた。
「ごめんなさい。
泣かないつもりだったのに。」
と、テッシュで涙を拭きながら伝える。

早都は、下を向いたまま
首を横に振った。
「早都。私の仕事が忙しくなって
あなたとの時間が作れなかった事は、
本当に申し訳ないと思っているの。
だけど、早都は私を応援してくれて
いると思っていた。
私達は、お互いを信じ合っていると。
まさか、私と早都の間に
早都が女性をいれてくるなんて
思いもしていなかった。
どれだけ馬鹿なんだろうね。
ここ半年
あなたが木曜日に浮き足立っている
姿を見て、悲しかったし辛かった。

それでも、間違いかもしれない
何かの誤解かもしれない····と
思っていたの
馬鹿だよね。
でも、私の居ない土日まで
二人で出掛けていたなんて。
お気楽妻で、笑えたでしょ。」
と、言う私に早都は、ただ、ただ
「すまない。」
「ごめん。」
と、繰り返すだけ。

そんな、早都に嫌気がさす。
何に対しての謝罪なのか解らない。

「明日、ここを出ていきます。
住いをまだ決めてないから
少しの間、荷物を置かせて欲しい。」
と、言うと早都は首を振りながら
「いやっ、嫌だ。
沙良は、沙良は、俺と······」
と、涙を流しながら言う
この人の泣き顔を見たのは
いつぶりかな?
なんて、呑気に考えている自分がいたが

「早都の中には、私はいないよね
「そんなこと···
かぶせて言われたが
「あるよね。
だって平気で嘘をついた上に
平然と自宅のパソコンで検索して
予約をいれていた
それも、妻の私でなく、
彼女の為に。」