『母様・・・あのへんな男の子と結婚するの?』
『あらあら、大和は嫌だったの?』
 いきなり子分呼ばわりされてどう好きになるのか。それでなくても双子の姉と兄にいじめられる毎日なのに。
『・・・やだ。王子様みたいな人がいい』
 むくれてそう呟くものだから母親もおかしそうに笑った。
 ふと目を開けると目の前にあったのは優真の顔。
「あ、起きた」
 昨日あの後帰ってからも眠れず委員会の集まりで寝てしまったようだ。
「何してるんですか」
「かわいい寝顔に見とれてた」
 別に示し合わせたわけでもないが、同じ風紀委員。と言っても集まりとかがあるだけで特に活動をしているわけでもない。
「そうですか」
「山田君は?」
 同じ委員であるクラスメイトの山田の姿は見えない。それどころか大和と優真の二人だけである。
「帰った。俺がいるし」
「一応待ってていただいてありがとうございます」
「これでデートの一つでもしてくれるとうれしいんだけどなぁ」
「デートしたいならかわいい女子たちを誘えばいいじゃないですか」
「お前・・・俺が誰を毎日毎日口説いてると思ってる」
「特にこれと言って先輩に思いを抱くことがありません」
「つれなさすぎる・・・」
「とりあえず、帰りましょうか」
 優真はその一言で機嫌をなおすと自分のカバンを持って教室を出た大和に続く。
「大和、甘いものは好きか?」
「人並みには」
 靴を履き替えた大和の目の前に一枚の紙を取り出す。そこにかかれていたのはホテルのケーキバイキング。しかもそこのホテルのケーキは美味しいと有名。
「・・・ここにいくんですか」
「嫌なら別「いきましょう!」」
 食い気味に返事をする大和の反応。別に笑いはしない。だが声がめちゃくちゃ楽しそうで隠れて優真はガッツポーズをした。
「いつが予定空いてる?」
「今週の土曜日はどうでしょうか?」
「今週の土曜だな」
 駅までは同じルート。大和はポケットから自分の携帯を取り出す。
「とりあえず詳細を決めるのに連絡先が必要ですね」
「・・・え?」
「だって、知らないですよね?」
 突然のことにあっけにとられるがどう手に入れようかと悩みに悩んでいた連絡手段をあっさりと大和の口から出てきて慌てて自分の形態もとりだす。
「ラインしていますか?」
「おぉ」
「一応携帯番号も交換して頂きたいんですけど・・・かまいませんか?」
 願ったりかなったりの交換に心の中で泣いて天に拝み倒す。表情が出ないように注意しながら。
「構わぬぞよ」
 表情には出なかったが言葉には出てしまったようだ。真っ赤になる優真に思わず吹き出してしまった大和。初めて見る笑顔に見とれてしまう。
「ぞよって・・・ふふふ、いつの時代なんですか」
「し・・・しょうがねぇだろ!俺だって浮かれるときはある」
「うっ・・浮かれてぞよって・・・おなか痛い・・・」
 笑いが止まらずしゃがみ込んでしまった大和にいいものを見た嬉しさと自分のかっこの悪さに顔の赤みが取れない。
 とりあえずラインと電話番号を交換して再び歩き始める。
「こんなに笑ったの初めて」
「そうかよ。ところでなんで電話番号まで?」
「今どきじゃないのはわかっているんですけど・・・」
「ん?」
「携帯って帰ってから触らないんですよね。琴音と春斗にも急ぎの時は電話でお願いしてるんですよ」
「別にいいんじゃね?俺もあんまり文章打つの得意じゃないし」
「モテすぎて携帯、ひたすら鳴り響いてそうですもんね」
「俺はあんまり連絡先交換しないから」
「そうなんですか?」
「だって、気がないのに気を持たせてるみたいで可哀そうだろうが」
 その言葉は春斗も言っていた言葉。案外似ている二人に思わず笑みがこぼれる。だからもてるんだ。