「今日は付き合ってくれてありがとう!」
 先ほど買ったワンピースの紙袋を大事に抱える。
「かわいいのがあってよかったね」
「次は大和の見に行こうよ」
「着飾る必要性がないから大丈夫」
 興味なさそうに歩き出した大和に「もうっ!」と両頬を膨らませる。琴音がそう言うのも訳がある。大和は現在制服を着ているが制服以外の服は部屋着と男物の服ばかり。
「あんなおしゃれなイギリスにいたのに何で男物の服ばっかりなの?」
「・・・しいて言うなら男だと思われてたから」
「はい?」
「特に不自由はなかった。今はジェンダー時代だから男が女の格好していようと女が男の恰好をしていようと特に何もないし」
「いや、面倒だと思っただけでしょ」
「琴音は人間観察得意だよね」
「いや、大和ほどわかりやすい性格してる人もいない」
 琴音はため息をついてふと足を止めた。それに気が付いた大和も琴音の方を見る。
「大和、これどう?」
 笑顔で指さすショーウィンドーの人形。その人形が来ているのはドレス。
「こんなドレス憧れでしょ」
「いや、これは着たくない。絶対」
 珍しく嫌悪感を抱く大和に興味がわく琴音は大和とそのドレスを見比べる。
「似合うと思うけど、身長もあるし見た目もかわいいし」
「いや、まず見たくない。さっさと行こう」
「えぇ?あっ、ちょっと」
 大和に腕を引かれてその場から歩き出す。無骨すぎる態度に疑問が浮かぶ。中学まで海外にいた大和を知らない。家も高層マンションに一人暮らし。
「なんで、見たくないほど嫌なの?」
「実家を思い出す」
「実家?」
「取り合えず今日は帰ろ。要件済んだし」
「うん」
 駅に向かい始めた大和と琴音。その時だった。いきなり大和の手を捕まれた。
「大和!」
 いきなり腕を引かれ振り向いた先には茶髪の高身長のイケメンと言われるであろう男が高級そうな服を着ていた。
「うわっ、イケメン」
「千家大和だな!」
「人違いです」
 すごく嫌がっている大和にどうしたものかと思ってはいるが、見れば見るほどイケメンなんだなぁと思わずにはいられない顔立ちの男。
「知り合い?」
「いいえ、違います」
「元婚約者の顔を忘れたか」
「元・・・・婚約者?」
「朔良様、いかがいたしましょうか」
「車を回せ。ようやく見つけた」
「かしこまりました」
 全く話を聞かない東雲咲良。側近の男はそのまま車を手配する。
「いきなり話を変えられて、大和は帰ってこないという。コケにされたおれの立場、理解できるか?」
「いいえ、特に理解しようとも思っていません」
「何を・・・」
「あの・・そろそろ大和の手を離した方が」
「・・・お前は誰だ?」
「わたしは」
「自分から名乗るのが紳士のたしなみ!」
 大和は捕まれたまま空いた手で男の襟首をつかむと一本背負いをした。公共の場で。
「あ・・・」
 ため息をこぼす琴音に何が起こったのか訳が分からない咲良は目を見開いたまま瞬きを繰り返す。
「私の存在はなかったことに」
 身なりを整えると琴音に声をかけて歩き出した大和。
「大和、千家ってなにも思わなかったけど今考えたらあの千家財閥とかかわりがあったりするの?」
 千家財閥。今や身近な製品にはなんにでも関わっているといっても過言ではないほどの家。東雲結奈と千家悠人(ハルト)の結婚がつい先日発表されていた。
「・・・ある」
「・・・なんで公立高校に通ってるの?」
「千家遼輔は私のことが嫌いだから。母親の遺言で最低限の生活の保障はある」
 そっか、っと琴音はいいそれ以上の追求はしなくなった。