「大和はなにが好き?」
 全く話を聞いていなかった大和は声をかけられた方を向く。どうやら最近のファッション雑誌でどれがいいかの女子トークをしていた。その中のひとり、山原琴音はきょとんとした大和に状況を理解したようで雑誌を大和の机の上に置き前の席に腰けて見開いた中の一つに指をさす。
「これとかどう?今度の遠足は私服みたいだし新しい服一緒に買いに行こうよ」
「琴音にはこのワンピースとか似合うと思う。春斗がこの前選んでた服と合うし」
「春斗と買い物に行ったの?」
「うん、昨日の放課後。琴音が部活の間に」
「あんたたちはそれで浮気にならないのがすごい関係よね」
 そういわれても致し方ない。彼女の部活中にほかの女子と買い物に行くのだ。通常の反応であればそういう反応が普通だろう。宇都宮春斗はイケメンでしかもスポーツマン。琴音と付き合った今でも告白が絶えないのだ。
「大和は春斗に何とも思ってなさすぎるから」
「まぁ、春斗より琴音の方が好き」
「あら!私も好きよ、勉強も運動も何事もすべて頼りがいのある大和が」
「大和!!」
 突然の背後からの襲撃に振り替えれば噂をしていた春斗がいた。周りの女子が騒ぐのも気にせず少し汗をかいている。
「琴音を口説くな!」
 元々は春斗と大和が先に友達になった。入学式で隣の席だったというだけで。そして同じクラスで前の席にいた琴音と大和は友達になった。因みに春斗の完全なひとめぼれである。
「どんな耳してんの?」
「琴音イヤーはどんな言葉も聞き逃さない」
「授業もそれで聞けばいいよ」
「それとこれとは話が別だ」
「うざ」
 大和と春斗の会話は基本的にこんな感じで女子との会話とは思えないほどの淡白さ。彼女であるはずの琴音はまるで聞いていないようで雑誌に目を通している。
「これとかかわいいと思う」
 春斗が指さしたのは先ほど大和が言ったワンピースでそれを知っている周囲の女子は笑うしかない。
「ね、言ったとおりでしょ?」
「言った通り?」
「大和がね、そのワンピースが似合うって。昨日大和と買いに行った服に合うってさ」
「あうけど!ちがうよ!」
「ねぇ、大和。とりあえず買い物付き合って」
「いいよ」
「琴音、春斗君誘わないの?」
「春斗は今日部活」
「琴音はいつでも淡白」
「琴音より大和の方が淡白だけどね。せっかくかわいい容姿なのに異性に興味がなさすぎる」
 大和は落ち込む春斗にお菓子を渡す。大人しく渡されたお菓子を食べる。
「んで、今日は何の部活?」
「剣道部が練習試合をするのに一人足らないんだと」
「剣道ね」
「大和もやるか?」
「琴音とデートあるから」
「大和好きよ」
「私も好き」
 大和と見つめ合う琴音に春斗が絶望感満載の顔をする。大和といるとき、琴音は少しだけ春斗に意地悪をする。下駄箱に入っている手紙や呼び出しのある告白。大和と違い春斗は一人一人の思いを無下にしない。ちゃんと真剣に思ってくれたことに答える。そこがいいところがあるのだが、やきもちを焼かないわけではない。なので大和には唯一敵視をしてくれる春斗に向けてちょっとした仕返しだった。
「春斗、またいじめられてんのか」
「優真!」
 廊下側に位置する大和の席の窓に肘をついて様子をうかがうのは山中優真。
「って優真は俺より大和なんだろ!」
 優真も大和に好意を持っていた。事の始まりは入学式、大和と春斗が仲良くなった時に優真は大和に一目惚れをした。その瞬間に告白して「だれ?」の一言を浴びせた大和に知ってもらおうと一年の教室に通い詰める。
「まぁ、自分だけ彼女作ったやつに温かく見守る気はない」
「いい加減どいてもらっていいですか」
 さりげなく大和の頭に乗っかる優真に無表情で答える。周りの女子たちは「キャー!」っと優真を見るたびに声を上げる。
「山中先輩にこんなに思ってもらってうれしくないの?」
「嬉しい?何が?」
「「「何が?!」」」
 学校中の女子が好意を持っているといっても過言ではないほどモテる優真に対して「何が?」の一言。それを聞いてしまった周囲の女子たちの心情たるや。
「まぁ、大和にそんな感情あればこんな状況になってないな」
「大和はそこがかわいいの」
 笑顔で机の上にあったお菓子を大和の口に入れる。その笑顔を見て優真は大和の顔をじっと見つめる。
「なにか?」
「お前いつ笑うの?」
「大和の笑顔・・・見たことない」
「少なくとも今ではない」
「「確かに」」
「おい!」
 平穏ないつのも日常である。