「絢音さんがお見えになりましたよ」
 扉が開き直樹が顔を出す。その後ろには大和の姉、絢音の姿があった。
「呼び立てして申し訳ない」
「まぁ、うちは特にこれと言って不利になる条件なんかないから別にいいんだけれど、本当に受けるの?これ」
 絢音はそう言って書類の入った封筒を掲げる。
「そちらは大和が必要なのか?」
「父は特に何とも思ってないわよ。あんな遺言なければ海外に放置したままだったんだから。何ならあの遺言は大人になるまでっていう曖昧な表現、高校を卒業してしまえば義務教育は終了なんだから大人の分類に入るわ。そのあとなんて放置する気満々だったわよ」
「なら、俺がもらっても問題ないという話だな」
「その年で経営まで手を伸ばすぐらいの秀才なんだから大和じゃなくてもいいと思うんだけど」
「俺はこれを望んでいる」
「そ、ならいいけど」
 絢音は封筒の封を切り書類を机の上に置いた。それは正式な婚約の書類。ようやく俺の手に戻ってくる。
 絢音を車まで送り届けるところで大和を見つけた。なぜかあの優真とかいう男と一緒。
「あら?あれ大和じゃない?」
 大和に手を伸ばす。が大和は優真に引き寄せられて手からすり抜ける。
「お前・・・なんだよ」
 驚いて振り返る姿もかわいい。
「あら、ひさしぶりね。大和」
「・・・お久しぶりです」
「せっかく海外に行ったのだからそのままいてくれればよかったのに。わざわざ引き戻すなんてお父様は何を考えているのかしらね」
「あんたら何か知らねぇけど、デートの邪魔してくれてんじゃねぇよ」
 デートだと?というかいつまで肩を抱いてんだ。と、手を伸ばしたが優真に手を払われる。
「悪いが、当家の話で俺と大和は再び婚約者になった」
「・・・あ?」
「よかったわねぇ、大和。千家としての正式な婚約よ」
「だからそいつを」
 よこせと手を伸ばすも再び振り払う。こいつは話を聞いてないのか。というかどう考えてもこいつの態度は大和と何にもないわけないだろ。
「悪いが大和はやれない。どんな奴だろうと俺がやっと手に入れたものなんでな」
 優真は笑うと大和を抱き上げて走り出した。っというか、今手に入れたって言ったか?
「直樹!情報が違うぞ!」
「情報は刻一刻と変わりますから」
「それは一理あるわね」
「ぬぬぬ・・・」
「・・・おもしろいじゃない?退屈せずに済みそうね、直樹」
「めちゃくちゃ楽しいですよ」
「直樹!」