とある屋敷の一室で一人の男がベットで仰向けになっていた。
 東雲財閥の跡取り、東雲咲良。顔も整っていて今まで女に不自由したことはない。だが、忘れられない人物がいた。三歳で出会ったその少女は千家大和。きらきらとした金髪に青みがかった緑の瞳。正真正銘の一目惚れだった。だが、いくら話しかけても駆け寄って行っても、プレゼントを贈っても笑顔を見たことが無かった。
 大和の母親が死んだとき、婚約が破棄されて大和自身もどこかへ行ってしまった。何を聞いても海外へ行ったこと以外明かされずどんなに探しても何もわからなかった。
 高校に上がり家の仕事をてつだうようになった。秘書をしている二つ年上の倉嶋直樹と共に仕事で街中を歩いているときふとすれ違った。出会いはたった三歳で数年間しかいなかった。だが、変わらぬきらきらした金髪に青みがかった緑の瞳。
「とりあえず今日は帰ろう。要件済んだし」
「うん」
「大和!」
 歩みを止めない大和に思わず手を伸ばして叫んでしまった。俺は忘れたことなどなかった。いや、忘れられなかったあの大和が大人になって日本に帰ってきていた。しかもあのぽっちゃり体系はなく綺麗なモデルのようだった。
「うわっ、イケメン」
「千家大和だな!」
「人違いです」
 凄く嫌悪感を丸出しに即答する大和。だがその即答が大和同一人物だと固定していた。
「知り合い?」
「いいえ、違います」
 違うと言われた。決して忘れているわけではないのにその俺に対する嫌悪感は一体何なんだ。
「元婚約者の顔を忘れたか」
「元・・・・婚約者?」
「朔良様、いかがいたしましょうか」
「車を回せ。ようやく見つけた」
「かしこまりました」
 取り合えず直樹に車を手配させる。
「いきなり話を変えられて、大和は帰ってこないという。コケにされたおれの立場、理解できるか?」
「いいえ、特に理解しようとも思っていません」
「何を・・・」
「あの・・そろそろ大和の手を離した方が」
 大和に伸ばした手を離せというこの女。一体何なんなんだ。
「・・・お前は誰だ?」
「わたしは」
「自分から名乗るのが紳士のたしなみ!」
 その言葉を聞いた瞬間世界が回る。比喩ではなく、実際に。
「あ・・・」
 ため息をこぼす女。一体何が起きた?なんで地面に倒されているんだ?
「私の存在はなかったことに」
 身なりを整えると女に声をかけて歩き去っていく大和。
「ふっ・・・ふふっ、大丈夫・・ですか?」
「そんなに面白いか、直樹」
「ちょっとだけざまぁみろって思っております」
「直樹!」
「それにしても大和さんは綺麗になられましたねぇ。そしてめちゃくちゃ嫌われてましたね・・・ふふっ」
 直樹は側近ではあるが幼馴染でもあるためことごとく人を馬鹿にするときがある。これで有能じゃなければ今すぐにでも辞めさせてやるのに。
「あの様子ではきっと彼氏いますね」
「・・・・彼氏?」
「・・・宇宙の話をしたわけではありませんよ」
「彼氏ってあの彼氏か?」
「恋人である男性のことを意味する言葉ですよ」
「・・・大和の近辺を調べろ」
「・・・・了解いたしました。負け犬にならないといいですね」
「一言多いぞ!」
「すみません、初恋拗らせ野郎が面白くて、つい」
「直樹!!」