これで、3度目だ。彼にこうやってキスマークをつけられるのは。

「だって~かっこ悪いじゃん、大人ぶって先輩につけようとして、失敗したらさ…。」

「だからって、人を練習台にしないでよっ‼しかも、3回とも寝てる間にするなんて…っ!変態っ!」

薫がよそってくれたお味噌汁とごはんに目玉焼きを食べながら、目の前で紅茶を優美に飲んでいる彼に文句を言う。

「でも、今日で完璧にコツをつかんだから、もうやらないよ。あとは本番だけだから。」

「……」

嬉しそうにそう言う彼の言葉に私がどれだけ傷ついているかなんて、きっと知らないだろう。

生まれたときから一緒で、両親も仲が良く、常に隣にお互いがいた。
しかも、相手はハーフで金髪碧眼。もうそれだけで小さい頃の私には王子様にしか見えなかった。年齢を重ねてきても、それは変わらず、同じクラスの男子はなぜだか霞んでみえるのだ。ただの顔好きと思われればそれまでだが、ピンチの時にはすぐに駆け付けてくれた。走って転んで膝から血が出れば、慌てて手当してくれたし、友達に嫌な事を言われて落ち込んでいれば
すぐに異変に気付いて抱きしめてくれた。中学の頃、体育祭の練習中、突然眩暈がして倒れそうになった時、違うクラスで離れたところにいたはずなのに、どこからか現れて全校生徒の前でお姫様抱っこされ、そのまま保健室に連れていかれた。
みんなの王子様がふとした瞬間、私だけの王子様になるのがたまらなく好きだったのだ。
こんだけ私のちょっとした異変に気付くのだから、当然両想いだと思っていた。
…思っていたのだが。

「じゃぁ、僕はこれから先輩迎えに行くから。あ、お弁当そこに置いてあるから、忘れずに持って行ってね。」

必死に頑張って同じ高校に入学し、なんとか友達を作ろうと必死になっている間に、いつの間にか彼には2年生の美人な彼女が出来ていた。

どうやら両想いだと思っていたのは私だけだったらしい。