「なんで……どうして、オスカーがここに?」


 自分でも驚くぐらい、私の声は震えていた。
 目の前にはプラチナブロンドが眩い、綺麗な顔立ちの男性が一人。一見、隙のない理知的な人に見えるけれど、この人の中身が、見た目と全然違っていることを私は知っている。


「随分な言い方じゃないか。――――俺はミアの婚約者なのに」


 オスカーはそう口にし、眉間に皺を寄せて笑う。壁際に追い込まれ、顎を掬われながら、私は首を横に振った。


(嘘よ。そんなのあり得ないわ)


 だってこの男は。オスカーは。
 つい昨日まで、私の恋人だった男だ。


 私の通う学園は上流階級の人間だけが通える名門で、そこに通う生徒たちはさらに階級別に区別される。
 上位貴族や聖女、国に特別に認められた人間だけが属するソレイユ級と、中位貴族や魔法使い達が属するシエル級、それから下級貴族や富裕層達が属するテール級だ。

 学園内は階級ごとに足を踏み入れてよい場所が決まっている。
 教室や校舎、通路や食堂、出入り口や使って良い設備も、何もかもが階級ごとに分けられていた。
 私は最下層のテール級。父親が事業に成功し、一代で財を築いた我が家は、所謂成金というやつで。正直言って私は、周りから浮いていた。
 居心地の悪さから別の学校へ通いたいと何度も思ったけど、娘の私が名門校に通っていることは両親の誇りで。とてもじゃないが、二人に打ち明けることはできなかった。そんなわけで、休み時間は片道20分近く掛けて、誰も来ないガゼボに逃げ込んでいたのだけど。