「それにわたくしにとってロジーナは、大事な親友なのです。それなのに、クリストフが彼女との婚約を拒否して、気まずくて……会話すら出来なくなってしまって。
――――わたくしは、彼女と仲直りがしたいと思っているんです」

(いやぁ……そいつは無理じゃねぇかなぁ?)
 

 吐いて出そうになった言葉を、エーヴァルトは必死に呑み込んだ。
 ロジーナがクリストフをどう思っていたか、エーヴァルトは知らない。けれど、グラディアと同じ『選ばれなかった者』の苦しみを、彼女も今まさに味わっているはずだ。クリストフが選んだのはグラディアだった。それは紛れもない事実だからだ。

 男女の痴情の縺れ程、簡単に友情を破壊するものはない。けれど、さすがに今、それを口にすることはあまりにもデリカシーに欠ける。己の領域(テリトリー)では何を言っても許されるだけに、エーヴァルトは何とも落ち着かない気分だった。


「……申し訳ございません。エーヴァルト様には今日、一度だけお付き合いいただければ、それで済むものと――――そう思っていたのですが」


 グラディアの表情は浮かなかった。今日の会合は物別れに終わってしまった。グラディアはエーヴァルトが今後の助力を断ることを危惧しているらしい。
 けれどエーヴァルトは、グラディアの頭をポンポンと叩くと、穏やかに微笑んだ。


「別に良いよ。おまえのお茶、美味いし。一緒に居るとぬるま湯に浸かってる感じがして落ち着くし」

「ぬっ……ぬるま湯ですか?」

「そう、ぬるま湯」


 そう言ってエーヴァルトは目を細めて笑った。人懐っこい年相応の幼い笑みだ。グラディアの心臓がトクンと疼いた。


「だけど、本当に良いんだな? あいつを手に入れないで、後悔しない?」


 最終確認とばかりにエーヴァルトが尋ねる。グラディアが頷くと「了解」と口にして、エーヴァルトは笑った。