「実はね。俺は最初、マイリーは隣国の間者なんじゃないかって疑ってたんだ」

「えっ⁉」


 思いがけない告白に、わたしは目を白黒させる。殿下はなおも笑いながら、ゆっくりと歩を進めた。


「俺を見る目が他の子と違っていたからね。だけど、話してみてすぐに違うって分かった。マイリーは素直で好奇心旺盛で、嘘が下手くそで。間者なんて務まるタイプじゃないからね」

「……それ、全く褒めてませんよね」

「ごめんごめん。でも、一緒にいると楽しいし、間者じゃないって分かってからも目が離せなかった」


 何だか物凄く居たたまれない。穴があったら入りたかった。既にわたしの目的は殿下に全てバレてしまっているし、とっても今さらなんだけど。


「ねぇ。マイリーは俺の結婚相手をスクープしたいんだよね」

「へっ⁉ は……はい。そのつもりでいましたけど」


 そう、そのつもりだった。
 殿下がわたしを許してくれたのはひとえに、これから先、わたしの念写能力が役に立つと判断したからだ。記者であることを容認してくださったわけじゃない。
 だから、この記事を書いた後は、粛々と侍女として働こうと思っていたのだけど。


「だったら、マイリーが責任もってスクープしてよ。出来る限り早く、記事に出来るように頑張るから。
タイトルは……そうだな、『王太子殿下には想い人がいる』なんてどうだろう?」


 殿下はそう言って、楽しそうに笑った。その瞬間、理由もわからないまま、心臓がキュッと音を立てて軋む。


「え? ――――あの、殿下には想い人がいらっしゃるんですか?」

「うん。きっとマイリーの期待に添える大スクープになると思うよ」


 わたしの気も知らず、殿下は嬉しそうに、頬を染めて笑っている。


「そう、ですか」


 まさか、こんなことになるとは思いもよらなかった。けれど、殿下の表情を見る限り、わたしに断るという選択肢は無いようで。


「――――精一杯、取材させていただきます」


 そう答えることしかできなかった。