今日はその約束の日。
 殿下は、先日とはまた違ったお忍びファッションに身を包み、わたしを出迎えてくれる。


「出掛けるんですか?」

「うん。休みの日に城に居ても、公務のことばかり考えて良くないし」


 殿下はそう言って、わたしの前に手を差し出した。不思議に思って首を傾げると、殿下はクスクス笑いながら、わたしの手をギュッと握る。その瞬間、心臓がドクンと跳ねて、頬が熱くなったのが分かった。


「行こうか、マイリー」

「はっ……はい」


 ドギマギと返事を返しつつ、殿下の後に続いた。


 街に着くと、殿下はわたしの手を引き、楽しそうに歩き始めた。
 ジェラートを買い食いしてみたり、量り売りしているフルーツを手に取ってみたり、手作りのジュエリーを眺めるその様は、実に楽しそうで。見ているだけでこちらまで楽しくなってくる。


(いけない、いけない)


 殿下の笑顔に見惚れてばかりで、ついつい念写するのを忘れていた。急いで数枚念写を残す。


「ん? 今、撮った?」

「はい。この念写なら、王室の――――殿下の好感度アップ間違いなしです」


 殿下の問いかけに答えながら、わたしはグッと拳を握る。きっと、殿下の念写を見た乙女たちは、彼にメロメロになるだろう。そう思うと何だか嬉しいし、ワクワクする。


「そうか。だったら、頑張ってたくさん取材してもらわないとね」


 殿下は穏やかに微笑みながら、繋いだままになってる手に力を込める。


(そう……そうだよ。これは取材なんだから)


 年相応の殿下の素顔が嬉しくて――――一緒に過ごすことが楽しすぎて。ついつい、当初の目的をすっかり忘れてしまっていた。
 頬をペシペシ叩き己に渇を入れ直す。そんなわたしを見ながら、殿下は小さく笑った。