(もどかしい。もどかし過ぎる)


 胸がバクバクと鳴り響いていた。


『国王が不急の公共工事を減らそうとしている』

『目障りなことだ。前国王はあなた様の傀儡――――言いなりだったというのに』


 その途端、殿下の表情が険しくなる。


(やっぱりこれ、ただの文字じゃない)


 きっと殿下にはこれと同じ内容が聞こえているんだ。


「腹立たしいことだ」


 しばらく経ってから、殿下はそう口にする。眉間に皺を寄せ、鋭い眼差しをした殿下はすごく貴重だ。こんな時に言うのは何だけど、とてもカッコいい。笑顔も良いけど、怒った表情も、物凄く魅力的だった。


「ここまで分かっていて、俺にはあいつらを糾弾する術がない」

「えっ? でも、こんなに証拠が揃っているのに」

「……確かに、奴らの会話はこうして残っている。文字だけでなく、音声を他者に聞かせることも可能だ。
けれど、音声というのは証拠として、とても弱い。言い逃れがいくらでも出来てしまう」


 殿下はそう言ってため息を吐いた。


(そんな……とっても素敵な能力なのに)


 我が国には、魔力を持つ人間は多くいる。だけど、わたしや殿下のような特殊な能力を持つ人は数少ない。

 わたし自身、自分の特別な瞳を気に入っている。だけど、同じかそれ以上に、殿下の耳を羨ましく思う。
 遠くにいる人間の会話を聞き取れて、それをそのままの形で残せるなんて素敵だもの。殿下が悔しそうにしていることを、とても勿体なく思う。


「あの! このまま現場を押さえることはできないんですか?」

「……正面突破は厳しいな。それこそ幾らでも言い逃れができてしまう。
第一、現段階で父上の力は弱い。国は今、有力貴族たちに良いように牛耳られている。糾弾しようにも、重鎮たちから良いように言いくるめられてしまいかねない」

「そう、ですか」


 もどかしさの余り、わたしは唇を噛む。
 いつの間に、国王の力はそんなにも軽んじられていたのだろうか。正直わたしは政治のことに疎いけれど、陛下や殿下を敬っているし、なんだかとっても腹立たしい。


(なんとかしたい)


 その時、一つの案が頭の中に浮かび上がった。